君と奏でるノクターン
5章/I say love……

1話/愛は……生命の花

黒いスーツ姿の詩月は妙に大人びた印象だと、ミヒャエルは思う。

ハインツに言われた通り、コンサート開始3時間前。

ミヒャエルは会場に着いた。

ハインツに案内され幕内から、音合わせの様子を観ている。


「詩月、思うように弾きなさい。優等生の演奏は要らない」


「はい」



――親子には見えないな


ミヒャエルは、緊張で凍りついた空気に、心まで凍えるようだと思う。


「君のガダニーニ『シレーナ』で、周桜宗月の舞台を荒らしてみろ」


――!?ガダニーニ『シレーナ』……詩月のヴァイオリンが……


ミヒャエルの顔が強張り、体が震える。


ガダニーニ『シレーナ』――。

放浪のヴァイオリン職人ガダニーニが、1758年に作製したヴァイオリン。

『シレーナ』と名付けられたヴァイオリンは、ガダニーニの他のヴァイオリンとは、一線おかれた存在だ。

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