君と奏でるノクターン
ミヒャエルは、淡々と語るハインツの顔を覗きこむように、耳を傾ける。


「演奏家としてデビューする間際、患っていた腱鞘炎が悪化し、演奏家生命を断たれた」

ミヒャエルは「あっ」と声を漏らす。


「彼女は宗月の勧めで以来、ヴァイオリン教室で演奏家を育ている……詩月は彼女の壊れた指で弾くヴァイオリンの音色を聴いて、ヴァイオリンを弾き始めたんだ……彼女を慰めるために」


「それが……詩月の原点」


「詩月の音色の先には必ず聴き手がいる。
詩月は『シレーナ』を14歳から弾いている……クレアの音色だ」

ハインツの目に涙が光る。


「詩月の音色の中にクレアがいる。クレアの音色を詩月は奏でる。クレアが演奏家生命を断たれた『シレーナ』で」


舞台上、宗月と音を重ねる詩月のヴァイオリンの音色。

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