君と奏でるノクターン
「教授ですらも、聴き手の1人か……次元が違う」

ミヒャエルがポツリ漏らす。


「『シレーナ』を弾いていることで、ひどい中傷も浴びている。詩月を『ローレライ』と呼ぶ演奏家や評論家も多い。意味はわかるだろう!?」


―― ……お前とは演奏したくない


ミヒャエルは、喉につかえた言葉を飲み込む。


「それでも詩月は弾き続ける。……クレアが医者に、中絶を勧められても拒んで産んだのが詩月だ」


「中絶をって!?」


「妊娠がわかった時、既にエコー検査には異常があった」

ミヒャエルの喉から、ひきつれた低い声が漏れる。


「クレアには夢を断たれた後、失意の中で宿った命が唯一の希望だったんだろう。異常があったとしても」


「詩月は知って!?」


「……クレアは度々、自分のせいだと夜中に1人、自分を責めることがあるらしいから、知っていてもおかしくないね」

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