君と奏でるノクターン
「……暖かい」

呟く詩月の声が、微かに震えている。


――何て顔をしてるんだ、たかが紅茶に


「……おいしい」

微かに溢した呟き。
詩月の目から、堪えていた涙が頬を伝う。


――詩月!?


ミヒャエルが、声を掛けようとするのをマスターの低い声が止める。


詩月は、ゆっくりと紅茶を含む。


「生姜紅茶はクレアが風邪気味の時、よく淹れてやった……日本は遠い」

ミヒャエルは、詩月の肩に、そっとストールを掛ける。


「寒くないか」


「……着信音の『ROSE』は、母が……壊れた指で何度も……弾き聴かせてくれた曲なんだ」

ミヒャエルの問いにはこたえず話す、頼りない声。


「……熱で寝てる時……発作で辛い時も。……母を慰めたくて弾いた曲も……『ROSE』だった……」

頬の涙を拭って、静かに。

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