君と奏でるノクターン
舞台袖、詩月は震えが止まらなかった。

観客を前に、演奏する宗月のピアノ。

天才ピアニスト周桜宗月の圧倒されるようなピアノの音色。

ハインツが、震えで崩れるように座りこむ詩月の体を支える。


「大丈夫かね?」

腕に伝わる詩月の体温。
ハインツは、素早く上着を脱ぎ、詩月の肩を包み込む。


――無茶をする、こんな状態で


ハインツは包み込んだ詩月の肩に、力を込める。


――だが……代役はいない。詩月のヴァイオリンを外して、今日の宗月に合わせられるヴァイオリニストはいない


ハインツは舞台の上、宗月を見つめる。


――宗月が、あんなに険しい表情で演奏するのは珍しい。気合いが入り過ぎている


観客席。
ミヒャエルが食い入るように、演奏を聴いている。

ユリウスは、いつもより硬い宗月のピアノの音色を心配している。

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