君と奏でるノクターン
エィリッヒは開演前、ハインツから事の次第を聞かされ、不安半分、期待半分の複雑な気持ちで聴いている。


「詩月、しっかりしろ。舞台の上でガタガタ震えているようでは演奏家は務まらない。宗月が全魂こめたピアノ演奏を、生かすも潰すも君しだいだ」

ハインツが詩月に渇を入れる。
心を鬼にして……。


「君と演奏することを宗月がどれほど楽しみにし、どれほど気合いが入っているか、あの演奏を聴いてわかるだろう!? 『周桜宗月に果たし状を突きつける』あの言葉は、口先だけだったのか」

震えと怯えで、虚ろだった詩月の瞳に力が戻る。


「全力で宗月にぶつかって行け、あのピアノにこたえろ」

ハインツが畳みかけるように、声を掛ける。


「周桜詩月は此処にいると、演奏で思い切り叫べ」

ハインツは、ユリウスの血相を変えた慌てよう、詩月の朝からの体調不良は、想像以上だろうと思う。

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