君と奏でるノクターン
詩月は後悔と、後戻りはできない責任感と、のし掛かる重荷に押し潰されそうだった。

重い気持ちを振り払おうと、街頭演奏をイメージする。

横浜で街頭演奏を始めて以来、1番のお気に入りだった場所「海岸通り公園」での演奏を。

潮風を感じながら、海を臨んでの演奏。

演奏を始めた頃、緊張感と好奇の視線に怯え、ガタガタ震えながら弾いた街頭演奏。

上手く弾けない悔しさに泣きながら弾いた演奏。

中学2年生の秋――あれから5年も経ったんだと思う。

詩月はあの時、奇しくも弾いた曲が、「懐かしい土地の思い出」と「ラ·カンパネッラ」だったことを思い出す。

偶然ではないなと、苦笑する。

ヴァイオリンケースを開けて、畳紙で包み、さらに巾着袋で、丁寧に包んだ弦を取り出す。

母親「クレア」が、学生時代チャイコフスキーコンクールに出場した際、ファイル選考にまで進出した時、張っていた弦。

< 165 / 249 >

この作品をシェア

pagetop