君と奏でるノクターン
詩月は、祈るような気持ちを込めて、素早く張り替え、調弦を済ませる。

タイムスケジュールを確認し、深呼吸する。
不安も緊張感も、治まらない。


――しっかりしろ


頬を叩き、気合いを入れて立ち上がる。

体調不良で重い体を引き摺るように、舞台裏へ向かう。
倒れそうになる体を、懸命に前へ前へ押し出す。

目眩で視界が揺らぎ、詩月の体がふらつく。

よろめく詩月の体をスッと、逞しい手が支える。


「詩月」


「!?……エィリッヒ」

いつも険しい顔で、詩月のレッスンをつけるピアノの師匠、エィリッヒ。

仮面を脱いだような優しい顔で、詩月をしっかり支えている。


「大丈夫か、宗月の胸を借りるつもりで弾け。気負わなくていい。思い切り演奏しろ」


「……はい」


「詩月『音楽は心だ』心で弾け」


「心で……」

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