君と奏でるノクターン
――これほどのヴァイオリン奏者だったのか

ミヒャエルは詩月の演奏を聴きながら、自分との実力の差を噛み締めている。


朝から体調不良で両脇を抱え支えなければ、歩くことさえままならない状態で弾いている演奏とは、とても思えない。

万全の状態であったなら……を想像できない。

市庁舎前クリスマス仕様の広場、幾つもの催しものよりも、聴衆が多いと噂されている、詩月のヴァイオリン演奏。


――完敗だ。こいつには敵わない

ミヒャエルは悔しさを通り越し、感嘆の溜め息を漏らす。

優しく暖かな音色が会場を満たす。

3部作17分弱の演奏が静かに終わる。

続けて間髪入れずに、鐘の音が響き渡る。

高音のピアノの音色に、ヴァイオリンの繊細な音が重なる。

巧みに動く左手の指、しなやかな右手の動き。

奏でられる透明で澄んだ音色。

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