君と奏でるノクターン
「お前に酷似したショパンを克服し、お前を越えるために這い上がってきた……自分の殻に閉じ籠り、頑なに、蕾を閉じて、刺のある蔓を幾重にもがんじがらめにして……」


「ハインツ、エイリッヒ、ユリウス……薔薇の刺は溶けたと思っていいのか。蕾は開き始めたと思っていいのか」


「宗月、わからないか。この曲が、この演奏が、詩月の答えだろう!?」


ハインツは肩を組み、宗月の顔をしっかりと、詩月に向けさせる。


「彼は、詩月はウィーンに来て1ヶ月半余り、ずっと苦しんでいた。お前の影に怯え、レッスンも上の空だった」

ユリウスが同意を求めるように、エィリッヒを見る。

「ああ……あの酒場で詩月の『木枯し』を聴かなければ、俺は彼を見限っていた」

エイリッヒの声に力がこもる。


「宗月、詩月はお前の直ぐ後ろに……既に、お前の隣りにいる」


「そうだ。周桜Jr.ではなく『周桜詩月』としてな」

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