君と奏でるノクターン
カップを覗き、郁子の顔がパッと明るくなる。

ラテの泡がまだらになってはいるが、中央にはピアノらしきものが描かれている。


「少し歪だったかな……彼は、周桜くんは不器用だ。君に早く追いかけてこいと、懸命にアピールしてる。言葉より、音楽で君を励ましてる」

貢と理久が、そうだと言うように、首をふるふるさせている。


「留学したばかりで、自分のことだけで大変だろうに……。
君に難題の宿題を出したり、果たし状を突きつける勢いだった周桜宗月と共演したりして、君を引き上げようとしている」

優しく淡々と話す顔は、満面の笑顔だ。


「メールや電話よりもずっと熱烈だ」

郁子の頬がほんのり色付く。


「郁、明日はかかってくるんだろう?」


「で、弾けるようになったのか?」


「ん……何とか」


「郁、バイトは?」


「えっと、6時には終わるから、こっちに移動」


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