君と奏でるノクターン
「貢、この雑誌もらっていい?」


「ああ」


「ありがとう。帰って練習しなきゃ」


「郁子、無理するなよ。間違っても徹夜練習なんてするな」


「うん」

郁子はカウンターに戻ったマスターに「ありがとう」と、声をかけて、モルダウを出る。

冬空を見上げて、首にストールを巻く。

正門の向こうに見える女神像。


――あの下で、周桜くんの「ヴァイオリンロマンス」を聴いてから、約4ヶ月。
綺麗な音だったな


郁子は数十秒、佇んで思い返した。


モルダウでは、貢と理久が向かい合って談笑している。


「ったく、郁子は詩月を完璧主義者だとでも思っているのか?」


「みたいだな。周桜はけっこう厳しいからな。適当に弾けば直ぐに見破られるし、練習不足も直ぐにバレる」


「出来ないと明らかにわかってる奴には、しっかり弾けとは言わないさ」

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