君と奏でるノクターン

「だろう!?　実は周桜くんから連絡をもらって準備をね。案内も配ったし、後は仕込みと飾り付けだけ」


「あいつ、いつの間に」


「周桜くんは『観客は多いほどいい』と言ってたよ」

「郁へのサプライズだな」


「頼んだよ」

マスターは鼻歌混じりに、仕込みにかかる。

理久はぶつくさ言いつつ、渋々と飾り付けを始める。


「ったく、何で俺が。詩月の奴、誰かに入れ知恵されたな」

貢はふてくされた理久を宥めつつ、店内にいる学生も巻き込み、飾り付けをする。



郁子は朝から何度も楽譜を確認する。


――譜読みは念入りにした。練習も念入りにした。不安でたまらない


興奮気味で眠れない夜を過ごした。


――周桜くんはサラブレッドだ。天才だ。どんな状況でも、臨機応変に演奏する人だ

郁子は何度も自分自身に言い聞かせる。