君と奏でるノクターン
白い髭のお爺さんのディスプレイは11月中旬から、赤い服に着替え、店先では赤いハッピを着た店員。

表の店から漂う甘い匂い。甘さ控え目のケーキが人気の洋菓子店。

郁子は、その向かいの角を曲がり路地を1つ入ったカフェで、昼からのバイト。

アップライトのオールドピアノを演奏する。

ピアノを演奏しながらも、詩月との二重奏が気になって仕方ない。


「どうしたの? 今日は気持ちがそぞろね。何か気になることでもあるの?」


「郁子は詩月との二重奏が気になってるんだろう。あの曲を詩月と弾くんだろ?」


「はい……ちゃんと弾けるかどうか不安で」


「まあ、ヴァイオリンロマンス? 詩月が留学前に1度弾いた曲。とてもいい曲だったわ」

店長の奥さんが詩月の演奏を思い出すように目を閉じる。


「難しい曲だ。不安なら練習がてら弾いていいよ」

店長が優しい声で言う。
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