君と奏でるノクターン
「ありがとうございます」

郁子はゆっくりと深呼吸して、ピアノを弾き始める。

動画で観た詩月の姿、演奏を思い浮かべながら。


「ほお~、店長。いい曲だな」


「でしょう? 詩月の曲なんですよ」


「詩月……詩月っていうと、あの詩月かい!? Nフィルの」


「ええ、今秋からウィーン留学してるんです」


「このところ、見ないと思っていたが……ウィーンか」


「この曲、今日8時半から聖諒学園前のカフェ·モルダウで、彼女と詩月が二重奏するんですよ。ウィーンとネット回線で」

カウンター席。
店長は壮年に、モルダウのマスターが作成した案内を手渡す。


「いいね。彼女は?」


「詩月のライバルらしいですよ」


「ん……詩月のヴァイオリンに比べると、彼女のピアノは粗削りな気もするが」


「そうですね。でも、二重奏となれば詩月が巧くフォローをするでしょうから」

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