君と奏でるノクターン
2章/二重奏
1話/愛は花 in 横浜
郁子は溜め息をつく。
スマホのメール送信と受信の数、その差を比べる。
そして、また溜め息。
「どうした? 浮かない顔だな」
「貢……」
横浜――カフェ·モルダウ。
山手の小高い丘、閑静な住宅街に私立聖諒学園はある。
アール·デコ様式で統一された外観の学舎、その正門正面に「モルダウ」がある。
学園の音楽科卒業生のマスターが経営する、BGMを一切かけない風変わりなカフェだ。
――追いかけてこい
郁子は、忘れられない言葉……あの日を思い出す。
「周桜か……あいつほど、沸かせる演奏をした奴はいないな。あいつが留学して、何かもの足らない」
振り向けば、そこに居そうな気がする――周桜詩月が。
「緒方」と呼ぶ掠れ気味の細い声。
端正で綺麗な、中性的な横顔。
穏やかに微笑む姿。
詩月のお気に入りは、ピアノ奏者の横顔が見える窓際の席だった。
スマホのメール送信と受信の数、その差を比べる。
そして、また溜め息。
「どうした? 浮かない顔だな」
「貢……」
横浜――カフェ·モルダウ。
山手の小高い丘、閑静な住宅街に私立聖諒学園はある。
アール·デコ様式で統一された外観の学舎、その正門正面に「モルダウ」がある。
学園の音楽科卒業生のマスターが経営する、BGMを一切かけない風変わりなカフェだ。
――追いかけてこい
郁子は、忘れられない言葉……あの日を思い出す。
「周桜か……あいつほど、沸かせる演奏をした奴はいないな。あいつが留学して、何かもの足らない」
振り向けば、そこに居そうな気がする――周桜詩月が。
「緒方」と呼ぶ掠れ気味の細い声。
端正で綺麗な、中性的な横顔。
穏やかに微笑む姿。
詩月のお気に入りは、ピアノ奏者の横顔が見える窓際の席だった。