君と奏でるノクターン

成功率は５回弾いて１回。

郁子は本番で、成功できる自信がない。


「時間があれば聞きに行っみるよ」

壮年は言い残して店を出た。


――周桜くんは、どんな風に弾くのかしら


郁子は気になって仕方ない。


「郁子、詩月のピアノ演奏が気になっているの？」

店長夫人が、郁子の肩を叩いて訊ねる。


「詩月と貴女は違うわ。詩月は詩月の、貴女は貴女の良さがあるわ」


「でも、わたし……まだ、ちゃんと弾けてもいないんです」

郁子は泣きそうな声を出す。


「郁子。この曲は詩月が描いた曲、詩月が完璧に弾けて当たり前だと思わない!?」


「それは……そうかも知れないけれど」


「郁子、彼は完璧の演奏を望んでなどいないと思うの。それに、彼は楽譜通り弾くような素直な演奏をするとは限らないわよ」