君と奏でるノクターン
「わたし、周桜くんに追いつきたいんです。周桜くんに満足してもらえる演奏がしたいんです」


「焦らなくていいのよ、郁子。詩月だって、今に至るまでには色々あったんだもの。悩んだ先にきっと暁はあるわ」


「悩んだ先に……?」

夫人の顔を見上げて、問い返す郁子。


「郁子。今の詩月のきっかけはね、貴女だったのよ」


「えっ!?」


「詩月が中学生の時、『雨だれ』を弾いて優勝したコンクール。貴女は記憶しているかしら?」


「あ……わたし、あのコンクールで彼に惨敗だったんです。あの時聴いた周桜くんの演奏で、彼には敵わないって」

夫人はフフっと声に出す。

「詩月は、あの日。まるで惨敗したような表情で、此処に来て、狂ったように『雨だれ』を弾いていたわ」


「わたしが彼のショパンを……」
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