君と奏でるノクターン
真っ先に声を掛けたのはミヒャエル。


「寒かっただろ、暖まるぞ」

マスターが言いながら早速、酒を勧める。


「空きっ腹に酒はよくない」

ミヒャエルが、渋い顔をする。


「マスター、ギムナジウムの学生に酒はまずいだろ」


「だ·か·ら、詩月はギムナジウムじゃないって」

ほろ酔いの常連客の言葉をよそに、詩月はジョッキを取り、僅かに傾ける。

芳醇な香りが鼻を抜けていく。

辛口のワインが喉元を過ぎる。

冷えた身体にゆっくりと、染み渡っていく優しい温もり。

グリューナー·ヴェルトリーナー種の、青りんごやパインにも似たフルーティーな味わいに、気が和む。


「ジョッキでワインなんて、日本では考えられない」

詩月はポツリ呟いて、ミヒャエルを見上げる。


「ビールや酎ハイならジョッキで……」
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