君と奏でるノクターン
ミヒャエルは、饒舌に話す詩月の様子に、こんな奴だったか? と思う。

ミヒャエルには、詩月が数日前の周桜宗月コンサート後から、どこか雰囲気が違って見える。


「ワインはイケる口か?」


「いや、たしなみ程度」

ミヒャエルは詩月の微かに笑っている顔に、まんざらではないなと思う。


「音大の優秀なピアニストとヴァオリニストがいるんだ。第九でパーっと景気づけなんてどうだい?」

既にほろ酔いの客が、一声。


「はあ? 即興なんて……それに俺、ヴァオリン持ってきてないぜ」


「ミヒャエル、『シレーナ』を好きなように弾くといい」


「『シレーナ』っ……お前のヴァオリンを!? 簡単に言うなよ」

ミヒャエルが尻込みしつつ、詩月にすがるような目を向ける。


――『シレーナ』なんて、難しいヴァオリン弾けるわけがない
< 199 / 249 >

この作品をシェア

pagetop