君と奏でるノクターン
ミヒャエルの目が詩月に訴えている。


「即興は得意だ。それに『シレーナ』は厄介なヴァオリンではない。安心しろ、しっかりサポートする」


「お前は……誰でもがお前みたいに即興や初見で弾けるわけではないってわかってるのか?」

ミヒャエルが眉間に皺を寄せて、詩月を見下ろす。


「ん……だから、好きに弾いていいって」


「ったく……ちゃんとサポートしろよ」


「わかった」

詩月はニコリ、こたえてヴァオリンケースから「シレーナ」を取り出し、ミヒャエルに手渡す。

――光沢のあるボディー、高級感溢れる色合い、ずしりとした重厚感、明らかに自分のヴァオリンとは比べものにならないな


ミヒャエルはヴァオリンを繁々と見つめて思う。

弦に弓を当て、ゆっくりと指盤を押さえ音を鳴らし、その音色の響きに、ミヒャエルの胸が高鳴る。
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