君と奏でるノクターン
――何て音色だ


「ん!? どうした? 『ローレライ』って、曰く付きの楽器は恐ろしいか?」

詩月はミヒャエルに真剣な眼差しを向ける。

恐ろしい……などと言えるわけがないだろう、ミヒャエルは喉につかえた言葉を呑み込む。

数日前、周桜宗月のコンサートで聴いた詩月の演奏が脳裡に甦る。

天才ピアニスト周桜宗月をも、圧倒するようなヴァオリン演奏。

初めてカフェ・アマデウスで、ベヒシュタインを弾く詩月と合わせた時の威圧感と衝撃……その何倍も感じた詩月の演奏の煌めき。

ミヒャエルは手にしたヴァオリン「シレーナ」よりも、詩月自身がどんな演奏をするかが恐くてならない。

詩月は、ゆっくりとピアノに向かう。

音の狂ったオールドピアノの鍵盤を高速で鳴らし、音を確かめ、頷く詩月。


「調弦が終わったら、いつでも弾き始めてかまわない」
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