君と奏でるノクターン
ピアノの鍵盤をゆっくり、撫でながらミヒャエルの様子を窺う。


――G線上のアリアの方がよかったか……あの曲ならG線だけで弾けた


詩月は思いながら、頼りないミヒャエルの音を支える。


『へぇ~、しっとりとした曲弾くじゃねぇか」


「ミヒャエルが真面目にヴァイオリン弾いてるとこなんて、なかなか拝めないぜ」


「詩月のピアノは、ビアンカの調子外れのピアノとは、格が違うな」


ピアノの隣の席でビアンカが口を尖らせ、むくれている。


詩月は「アヴェ·マリア」をカフェ·アマデウスとマルグリットのサロンで、幾度か弾いている。

酒場で弾くには不釣り合いな曲だなと思う。

景気つけに、パーっと弾きたい思いを抑える。


――チキショーッ、合わせる相手によって弾き方まで変える

ミヒャエルは悔しいながらも、自分が安心感しきって弾いていることに気付く。

< 203 / 249 >

この作品をシェア

pagetop