君と奏でるノクターン
カフェ·アマデウスで、初めて詩月と演奏した時を思い出す。


――あの時と同じ曲。
あの時は、こいつの無茶ぶりなラテン系の演奏変更に終始、戸惑いっぱなしだった


ミヒャエルは、ラテン系の「アヴェ·マリア」を思い出しながら、懸命に弾く。

詩月の表情は、曲調が変わっても平然としている。

全く変わらない。


――狂って鳴らない音が、幾つもある筈だ。
何故、そんな涼しい顔をして……

ミヒャエルは焦りと苛立ちを感じながら、思い切り演奏する。


「ミヒャエルが反撃に出やがったぜ」


「面白くなってきた」


ほろ酔いの男たちが、上機嫌で声を上げる。


「無理だわ、あのピアノで……」

ビアンカが手を胸の前で組み、心配そうに、詩月を見つめている。


詩月は顔色1つ変えない。


「君の本気の演奏が聴きたかったんだ」

ピアノを弾きながら、さらりと言う。

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