君と奏でるノクターン
見るからに捌けなさそうな青年に、食器洗いを任せ、ホッとしたように息をつく。

ビアンカのピアノに合わせて、ヴァイオリンを弾き始めた詩月に、客から曲のリクエストが掛かる。

詩月は次から次に掛かるリクエストを、事も無げに片っ端から演奏していく。


――あいつ、どれだけレパートリーが広いんだ?


ミヒャエルが呆れるほど、ジャンルも演奏も半端ない。


「ミヒャエル、少し休むように言ってやれ。第九コンサートの後だし、ずっと演奏し通しだ」

ミヒャエルは店の柱に掛かった時計を見る。

詩月が演奏し始めて、ピアノも合わせ2時間を越えている。


「あのバカ」

ミヒャエルは呟くなり、ジョッキ数個を鷲掴みにし、ツカツカと詩月に歩み寄る。


「おい、少し休め。4時までに息切れするぞ」

詩月の耳元で囁いて、客席にジョッキを置いていく。
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