君と奏でるノクターン
礼の仕方は角度から、挨拶も作法も行儀も厳しい人だった。


――「所作の1つ1つに気品を。身のこなし1つで品位も問われるのだから」


詩月は今更ながら、亡き師匠の教えがどれほど大事なことだったかと思う。


――「習字は習っておきなさい、字は人を表すとも言うのよ。言葉使いと同じくらい大事なの」


細かな教えが思い浮かぶ。
亡き師匠に師事した、10年という歳月の重さをひしひしと感じる。

詩月は、おにぎり1つと玉子焼き、味噌汁を食べ終え、箸を置く。

合掌し「ご馳走さまでした」と、頭を下げる詩月の姿。

側にいた客たちは、不思議そうに見つめた。

詩月がカウンターにトレイごと、食器を戻し、マスターに話しかける。


「マスター、懐かしい味だった。ありがとう」


「ん、簡単な物しか作れないがね」


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