君と奏でるノクターン
「ホイリゲで頂けるとは思わなかった……」


「少食だと聞いていたが、予想以上だな」

マスターが、皿に1つ残ったおにぎりを見て言う。


「和食が恋しい時は、声をかけろ。いつでも作って……ん、詩月!?」

カウンター席に座った詩月は、静かな寝息を立てている。


「安心しきった顔だな……ったく」

マスターが困惑しながらも、音を立てないようにカウンターから出て、詩月を起こさないように抱きかかえる。


「はあ? 信じらんねぇ、寝ちまったのか?」

ミヒャエルが客席の隙間をすり抜け、ジョッキを運びながら、呆れている。


「無防備ね、こんなに無邪気な顔もするのね」

ビアンカがカウンターで、ピアノ演奏の小休止に、ワインを口にして、クスッと笑う。

マスターは詩月を抱き上げたまま、暖炉近くの席にそっと座らせ、肩に上着を掛ける。

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