君と奏でるノクターン
ミヒャエルが、ふいに何か察したように声を漏らす。


――ったく、理久って言ったか……あいつ

ミヒャエルは数日前、詩月がヴァイオリンで弾いている楽譜を見て、驚いたばかりだ。


「ユリウスったら、詩月には負けられないって躍起になってるの。子どもみたい」


「プロでも、付け焼き刃の練習で弾けるような曲では……」


ミヒャエルは不安げにマルグリットを見る。


「そうなのよ、詩月の幼なじみ『理久』って言ったかしら。ファックスしてきたの。詩月がアレンジした曲だって」


ミヒャエルは、やっぱりなと思いつつ、「もしかしたら親子対決を見られるかもしれない」と、口角を上げる。


「だけど……少し違うのよね、サロンで詩月が弾いていたピアノと……宗月が弾くから違って聴こえるのかしら?」

時刻は1時半を回っている。

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