君と奏でるノクターン
「ユリウス、詩月は隠しバージョンでも持ってるんじゃないか?」

エィリッヒがからかうように言う。


「それより、こんなオンボロピアノで弾けるのかどうかが心配だけど」

ミヒャエルの言葉をよそに、黒髪の男はピアノの前に座っている。


「ゲッ、マジか」

ミヒャエルが言うが早いか、男は鍵盤を端から端まで指を滑らせるように素早く鳴らした。


「宗月、もう始めるのか? 1杯つけてから……なあ」

エィリッヒがユリウスに同意を求めるように、笑顔を向ける。


「宗月は、練習の成果を披露したくてしかたないみたいだな」

ユリウスは言いながら、ヴァイオリンを取り出し、急ぎ調弦する。


「宗月、起こさなくていいのか」

エィリッヒは深く溜め息をつき、大袈裟に両手をつけて首を振る。

宗月の節くれだった長い指が鍵盤をすべらかに鳴らす。



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