君と奏でるノクターン
詩月が奏でたヴァイオリンの音色を思い出す。

今いる場所が、カフェ·モルダウではなく、女神像の下のように感じて、辺りを見回し、女神像の下のわけないなと思い、画面に目を移す。


「郁子くん、指ならしに弾いてみてはどうかね? ピアノ」


「えっ、マスター!?」


「周桜くんのヴァイオリンは君を呼んでるようだ」

郁子の頬がほんのり紅く染まる。


こんな凄い演奏に合わせて……と思いながら、郁子はゆっくり立ち上がる。


バイト先のカフェ、アップライトのオールドピアノに綴られた横滑りのアルファベット、詩月の書いた文字が頭に浮かぶ。


「『Musik-Herz』」――音楽は心」

郁子は呟いて、自分自身に言い聞かせる。

鞄から楽譜を取り出す手も膝も震えている。

マスターは、郁子がぎこちない足取りでピアノに向かうのを優しい眼差しで見守っている。

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