君と奏でるノクターン
郁子が、女神像の下で聴いたヴァイオリンの旋律が、ピアノの音色で静かに奏でられる。


「ほお~」

宗月とユリウスが同時に漏らす。


「ヴァイオリンとの二重奏がメインの曲だと思っていたが……」

郁子が不安げに、戸惑いながら奏でるピアノの旋律が詩月のピアノと重なる。

辿々しく頼りない郁子の音色を、詩月の弾く対の旋律が支える。

音の狂った鍵盤、音の鳴らない鍵盤を把握し、巧みにピアノを微調整しながらの演奏。
詩月は耳を研ぎ澄ます。


――スゴい集中力、とんでもない技量だ

詩月のピアノ指導を託され2ヶ月弱、エィリッヒは改めて詩月の実力に驚く。


――何て優しい音色。全てを包みこむ温もり


郁子は自分のピアノの拙さも頼りなさもミスも、全てを補う詩月のピアノを全身で感じる。


――気負わなくていいんだ。全てを委ねていいんだ


< 242 / 249 >

この作品をシェア

pagetop