君と奏でるノクターン
郁子の緊張がほぐれていく。

――あの5年前とは違う。凍てついた威圧感、あの時のピアノとは……全然違う

郁子は詩月のピアノの音色が、胸の奥底まで染み渡っていくのを感じる。

『君のピアノの音が忘れられなかった』

郁子は詩月が女神像の下で告げた言葉を思い出し、5年前のコンクールで弾いた自分自身の演奏を思い浮かべる。

――いつから自分の演奏に自信が持てなくなったんだろう。
いつから本気で弾けなくなっていたんだろう。
いつから伸びやかに弾けないんだろう。
いつから臆病になったんだろう

郁子は懸命に曲を奏でる。

『緒方、僕のライバルは、君しかいない』

郁子は詩月の声をハッキリと聞いた気がし、顔を上げる。


――そう、5年前。あの周桜くんのショパン「雨だれ」を聴いた時から、わたしはずっと周桜くんのピアノを追いかけている……ピアニスト周桜詩月を

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