君と奏でるノクターン
「べ、別に遠慮してるわけでは……」


「周桜は忙しさで、郁の気持ちに気づいていないんじゃないか?」


貢は郁子の顔から目を離さず、からかうように言う。


「貢、周桜くんのスマホの着信音、知ってる?」


郁子は唐突に訊ねる。


「着信音? あいつはクラシックだろう」


「『ROSE』……『愛は花』って言った方がわかる?」


「『愛は花』って、たしかアニメ映画に使われた歌か?」


「そうそう」


「それが何か……?」


「歌詞がスゴく切ないの」

「そうか?」


「アニメ映画の歌詞はかなり、意訳してあるもの。実際はもっと切ないわ」


郁子はそう言って、鞄の中を探る。


透明のファイルに、整理されたプリント用紙の中から、1枚手書きされた紙を取り出し、サッと机に広げる。


「周桜くんにもらったの。直訳すると、こんな意味なんですって」

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