君と奏でるノクターン
貢は歌詞を初めから読み返し、思い立ったようにヴァイオリンを急ぎ取り出す。

調弦を手早く済ませると、颯爽とヴァイオリンを構える。


「貢?」


真っ直ぐで癖のない、楽譜に忠実で、飾らない模範のような……そつの無い演奏。


美しい旋律が響く。


郁子は「ROSE――愛は花」の歌詞を見つめて呟くように、口ずさむ。


詩月のヴァイオリンの音色を思い浮かべ、ヴァイオリンを弾く詩月の澄ました顔を思い浮かべる。


情景が鮮やかに、目の前に映し出されるような伸びやかな詩月の演奏。


どう弾けば聴き手を惹き付けるか、どう弾けば曲をより引き立たせるかを知っている――華のある演奏。


優等生で模範のような貢の演奏とは、正反対の演奏が思い出される。


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