君と奏でるノクターン
素っ気ないドイツ語、電話越しの細い掠れ声。
頼りなさが気にかかった。


胸の奥底に、染み入るように奏でられる詩月のヴァイオリンの音色が、思い出される。


郁子は、丁寧に整然と綴られたインクの文字を読み返す。


直訳された切なく深い歌詞、鋭く胸に迫り、心を突き刺すような歌詞。


――周桜くんは自分自身に厳しい人だ


郁子は思う。


――悩んで悩んで、悩み抜いて自分自身を責め、辛い思いも苦しさも、心に押し込めて耐えている。
そんな人だ……


郁子は以前、そんな詩月の事情を深く知らず、「意気地無し」と責めたことがある。

「逃げているだけだ」と激しく。


詩月は郁子に「君に何がわかるんだ」と、言っただけだった。


父親であり、天才ピアニストとして名高い周桜宗月の活動の本拠地ウィーン。


――周桜くんは周桜Jr.として噂になっているのかもしれない
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