君と奏でるノクターン
親子は何らかの形で、弾き方が似てしまう。

それは詩月も例外ではなく、何年間も葛藤し続けた。


郁子は詩月が、父親と酷似している演奏を克服し、笑って話せるまで随分努力し、辛い思いをしていたなと振り返る。


今でも、詩月がJr.と呼ばれることに、過剰な反応をすることを郁子は知っている。


詩月の演奏が噂になればなるほど、詩月には「天才ピアニスト周桜宗月Jr.」という枷も増す。


越えたくて越え難い存在を間近にし、何かにつけ比較されながらの日々。


郁子は詩月が、どれほどの重圧に耐えているんだろうと、勝手に想像してみる。


――自分なら……弱音を吐き、愚痴をこぼし、辛い思いをぶちまけているかもしれない。
だけど、周桜くんは……そういう人ではない


郁子は、詩月の澄ました顔を思い浮かべる。


美しく切ない歌詞が胸を刺す。
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