君と奏でるノクターン
「あ……っ」


ポカンと口を開けたまま、郁子は理久を見る。

さすが兄貴分だなと思う。


「理久、いいこと言うな」

貢が理久の耳元で囁く。


「まぁな」


理久は照れて、鼻の下を指で擦る。


「あのバカっ、連絡してくる相手が違うつーの」


溜め息混じり、貢と郁子にわからないよう呟く。


「ん!?……何か?」


「いや、世話の妬ける弟分だからな」


「お前より、しっかりしてると思うけど」


「はぁ!?」


貢と理久の不毛な会話が続く。


郁子は我関せず、「ケルントナー通りのヴァイオリン王子」に見いっている。


演奏に合わせ、指を動かす。

ピアノを奏で、音を合わせているつもりになる。


――追いかけてこい


詩月の言葉を思い出しながら……。

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