君と奏でるノクターン
「お前、バカだろ? レッスンなんだぞ。コンサートでもライブでもないんだ」


ミヒャエルが声を荒げる。


「師匠は、あんな演奏を褒めないし、あんな口先だけの言葉は言わない」


「どんな師匠だよ、フランツ教授より厳しいなんて」


ミヒャエルは、詩月を見つめ、困惑したような顔になる。


「お前、指は大丈夫なのか?腱鞘炎の心配は」


ミヒャエルが、ヴァイオリンケースを抱えた詩月の手袋を、むしり取るように脱す。


細く長く折れそうなほど華奢な指。
手入れの行き届いた爪。

だが、ミヒャエルは首を傾げる。


「あ……っ」


紫色に薄く変色した爪に驚く。


「そんな爪でヴァイオリンを!?」


「怪我をしてるわけではないから」


詩月は指を隠すように、手袋を着ける。

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