君と奏でるノクターン
「怪我ではないって!?」


「君が知る必要はない」


詩月は切り捨てるように言って、背を向け歩く。


「その指は音楽を奏でる大事な指だ。その手でしか奏でられない音があるんだぞ」


詩月は振り返らない。
ゆっくりと駅に向かう。


「詩月!!」


ミヒャエルが叫びながら詩月を追い、肩を掴む。


「構うなよ。鬱陶しい」


「女子が話している噂、本当なのか?」


ミヒャエルが、遠慮がちに訊ねる。


――お前に迷惑はかけていないだろう


詩月は、苛つく気持ちを抑え、聞かなかったふりをする。


勝手にスマホを触ったり、勝手に画像投稿していたりする無神経さが、苛立ちに拍車をかける。


――噂になるのが嫌なわけではない。親と比較されるのが嫌なだけだ


治まらない苛立ち、自分自身に言い聞かせ、詩月は納得しようとする。


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