君と奏でるノクターン
練習時間を訊ねてくる者はいても、手袋を脱がしてまで指を観る者は、医者くらいしか居なかった。


――答えるのは容易い


詩月は、手袋の上から指を擦り暖める。


1つ答えれば、次の問いかけに答えなければならなくなる。
詳しい説明が必要になる。

詩月は、それが面倒だから話さない。
大変だなと、言われたくないから話さない。


――話したくない。


詩月は今まで、詩月に関わる人々が、自分にどれだけ気を遣い、さりげなく配慮をしながら、接してくれていたのかと、染々思う。


自然過ぎて気づかなかった配慮。
詩月は今さらながらに感じて、申し訳なさと有り難さを噛み締める。


紫に変色している爪は、チアノーゼ。


冬――。
先天性心臓病の詩月には、辛い季節だ。
夏は水分制限で、暑さ対策や脱水症状対策が課題になる。

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