君と奏でるノクターン
「ユリウスが心配しているわ。Nフィルで、あんなに輝いて伸び伸びと弾いていたあなたが、ちっとも輝いて見えないって」


――気づかれていた

詩月の顔が強張る。


「演奏から何も伝わってこない。独りよがりの演奏をしているって」


――見透かされていた


詩月は震える指をキュッと強く、握りしめる。


「街頭演奏で評判になっているみたいだけど、日本でのあなたは……もっと輝いていたって」


マルグリットはバックミラー越しに、詩月の表情をうかがう。


「寒いから、心まで凍えてしまってるんじゃないかって」


詩月は「あっ……」と小さく声を漏らす。


マルグリットがサロンの駐車場に、車を停める。


「ウィーンは音楽の都。音楽で思いを語れば聴衆がこたえてくれる街なの。それを感じてほしいの」


マルグリットは、穏やかに言いながら車の鍵を抜く。
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