君と奏でるノクターン
男性はヴァイオリンの音色に、体ごと抱きしめられる安心感を感じ、乱れていた演奏を持ち直す。

マルグリットは響き合うピアノとヴァイオリンの奏でる調べに耳を澄ましながら、詩月を見上げる。

──こんなにも暖かい演奏をする弾き手だったなんて……しかも、即興で!?

「マルグリット。彼、何者なの!?」

隣の席から内緒声で婦人が訊ねるが、マルグリットは詩月と男性の奏でる「アヴェ・マリア」に聞き入っていて答えない。

──ケルントナー通りのヴァイオリニストが市庁舎前の催事よりも評判になっている

マルグリットはただの噂くらいにしか思っていなかった。

ユリウスの評価や批評を聞いている限り、詩月のこの演奏は想像さえつかなかった。

聖堂で微笑む聖母マリアの姿が見えるようだ。

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