君と奏でるノクターン
ピアノ演奏の拙さが気にならない。

マルグリットは詩月のヴァイオリン演奏に、瞬きさえも忘れている。

ピアノを弾く男性は今にも涙が零れ落ちそうになるのを懸命にこらえる。

初めて音を重ねる相手に、ここまで寄り添う演奏ができるのか? と耳を疑う。

胸にこみ上げてくる感情を抑え切え切れず、溢れる思いを音に託す。

マルグリットはサロンを始めて数年、様々な演奏を聴いている。

だが未だかつて、これほど胸が熱くなる演奏を聴いたことがない。

何故、ユリウスはあんなことを言ったのかしら? と不思議で仕方ない。

演奏が終わると、詩月の周りを感動した客が取り囲み収拾がつかなくなっていた。

ピアノを弾いた男性は群がる客を掻き分け、詩月の前に進み出る。

「素晴らしいアヴェ・マリアだった。思い切りピアノを弾けたよ」


< 61 / 249 >

この作品をシェア

pagetop