君と奏でるノクターン
紅潮した頬、満面の笑みを向け詩月の手を握りしめる。

「いえ、こちらこそ楽しませて頂きました」

詩月は丁寧に挨拶する。

男性が目を白黒させ詩月を見る。

「咄嗟的に弾いたけれど、グノー・バッハの『アヴェ・マリア』が一番綺麗ですよね」

男性が大きく口を開けたまま、固まっている。

「それにピアノ演奏が、とても寂しそうで自信無さげだったから」

詩月は言いかけ数回、湿った咳をする。細く華奢な肩が忙しく上下している。

「ありがとうごさいました。アマデウスでベヒシュタインを弾いた時よりも、楽しかったです」

詩月はニコリ笑みを向け澄まし顔に戻る。

マルグリットは男性と詩月の会話を聞き、ウソでしょう!? と頭の中を整理する。

「アヴェ・マリア」にはシューベルト作の曲も、カッチーニ作の曲も、またラフマニノフ作の曲もある。

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