君と奏でるノクターン
シューベルトの「アヴェ・マリア」はグノー作よりも軽快な曲調だ。

カッチーニ作の「アヴェ・マリア」は短調系の曲調に作曲されている。

男性が弾いた僅か十数秒のピアノ演奏に合わせ、咄嗟に「アヴェ・マリア」を弾いたという言葉に驚く。

「きみ、名前は」

「詩月」

詩月は小さく呟く。

男性は目を見開き、数度しばたく。

詩月は軽く一礼し、マルグリットを振り返る。

「──周桜宗月の」

詩月の肩がふと、溢した男性の呟き声に微かに動き、胸がトクンと跳ねる。

──まただ

颯爽とピアノを奏でる周桜宗月、圧倒的な音色と自信に満ちた演奏姿、洗練された音色が思い浮かぶ。

詩月はゆっくりとヴァイオリンをケースに仕舞う。

──周桜宗月。父さん、ウィーンに来て……あなたの影を感じない日は……ない

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