君と奏でるノクターン
「ROSE」の余韻が残る店内を、暖かく包みシューベルトの「アヴェ•マリア」が奏でられる。

先ほどのグノー、バッハの「アヴェ・マリア」と対比するように、しっとりした旋律が奏でられる。

──何かを掴んだわね

マルグリットは頬杖をつき、詩月を見守りながらユリウスの言葉を思い出す。

──詩月は天才だ。傷つくことを恐れていてはチャンスは掴めないが。彼は宗月を越える演奏家になるだろう

アヴェ・マリアを弾いた男性も、目を細め聴い
ている。

詩月は何を恐れていたのか。何故、卑屈になっていたのかと、曲を奏でながら思う。

──「周桜詩月」は一人しかいない。亡き師匠や、日本で師事していた教授、理久、様々な人、そして郁子に言われ続けた。傷つくことを恐れていては……何も掴めない。希望は希望から、僕の意志から生まれる

詩月は俯いていた顔を上げる。
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