君と奏でるノクターン
自らの耳で聴いた曲を自らの耳を便りに、楽譜におこした曲。

夏の盛り、郁子に弾き聴かせた曲をゆっくりと弾く。

昼間は防音効果をOFFにしている詩月の部屋から、詩月の弾くピアノの音色が漏れる。

居間に、書斎に、庭に、邸中に響き渡る。


「誰の曲かしら?」

居間で寛ぎながら、マルグリットがユリウスに訊ねる。


「さあ~、聴かない曲だ」

珈琲カップに掛けた手を止め、ユリウスはピアノの音色に、耳を凝らす。


「マルグリット、彼はサロンで弾いているのかい!?」


「ええ。先週から3回、サロンで演奏をしたわ」


「最近、ヴァイオリンの音色が優しい。ピアノの音色も少し暖かみを増した」


「サロンでも好評なの」


「……だが、彼は演奏にムラがある。気分が乗っている時、そうでない時がハッキリしている」

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