君と奏でるノクターン
「そうね~。詩月の演奏は正直ね。詩月自身は何を考えているのか、よくわからないことが多いけれど」


「まだだ……こんなものではない」

ユリウスの顔が険しくなり、冷たく言い放つ。


「えっ!?」

マルグリットが目を丸くし、言葉を確かめる。


「彼はまだ全力で弾いていない、エィリッヒが心配していた」


突き放すような厳しい声に、マルグリットが顔を強張らせる。


「エィリッヒ……詩月のピアノ指導をしている?」

マルグリットの問いに、ユリウスは応えず、厳しい顔のまま立ち上がる。

「様子を見てくる」ポツリ言い、居間を出る。


――完璧を求めすぎるのよ、ユリウスもエィリッヒも……。期待しすぎるのよ


マルグリットは、肩を怒らせたユリウスの後ろ姿に、そっと呟く。


――サロンに誘ったのは楽しく演奏できればと、思ったからなのに……

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