君と奏でるノクターン
詩月はユリウスを見上げたまま、何も言わない。


碧い瞳は確かに開き、ユリウスを見つめている。

が、瞬き1つしない。


ユリウスが詩月の肩に、そっと手を置くと詩月の体がぐらりと揺らぐ。


「詩月!?」

ユリウスは椅子から崩れるように傾く詩月の体を、慌てて両腕で支える。


「――あっ」


両腕に伝わる詩月の体温、火照った細い体、「嘘だろう!?」思わず漏らす。

詩月の体を抱きかかえ、ベッドに寝かせ、洋服のボタン、ベルトを緩める。


「ユリウス、何かあったの?」


物音に気付き、マルグリットが部屋に駆け込む。


「……大丈夫だから」

体を起こしながら詩月は呟く。


「無茶をし過ぎる。がむしゃらにただ練習しても、答えはでない」


「……不安なんだ、『周桜宗月』の影が追いかけてくるようで」

細い掠れ声で弱々しく息をつきながら、ポツリポツリ話す。


< 76 / 249 >

この作品をシェア

pagetop