君と奏でるノクターン

「父の地盤だって……弾きながら、いつも感じる……」

マルグリットが詩月の背を擦る。

マルグリットの涙に滲む瞳が、詩月の爪の色を見つめる。

薄く紫色に変色した爪。


「だからといって、息抜きも休みも無しになんて」

マルグリットは詩月をなじるように、声を荒げる。


「辛いのは体ではなく心だ……心が疼くんだ」


「――エディプスコンプレックス、越えねばならない壁だ」


ユリウスが低く突き放すように呟く。


「大きな壁……だがチャンスを掴むか否かは君次第だ」

詩月の碧い瞳がユリウスの険しい顔を見つめ、ユリウスの言葉に揺れる。


「魂が傷つき血を流すような辛さの中で、抗わなければ得られないものもある。その痛みが君を更に輝かせる」

詩月は言葉を失い、ただユリウスを見つめる。


「壁を越えろ。宗月という壁を。『ピアニスト周桜宗月』を越えろ」